2007年02月10日(土) [過去の今日]
#1 ミハエル・シューマッハの本当の価値
若干疲労してるのか何も手が付けられなかったので、忙しくて見れなかったブラジルGPをやっと見た。
「運」という言葉がある。あいつは運がいい、今日は運が悪かった、そんな言い方をする。
ブラジルGPでのミハエル・シューマッハは、「運が無かった」と思われるだろう。予選でのトラブル、10番手から5番手へ上がったとたんのタイヤバースト、信じられないような運の悪さが見られた。今までのシューマッハには、こんなことは無かったのに。
いや、そうだ。今までは無かったのだ。今まで無かったのはただ「幸運」なだけだったのか? 否、そうじゃない。運だけで7度も世界王者になれるものか。
機械が壊れる、トラブルを起こすのには、理由がある。保管、運搬、使用状況、いろんな要素がそこに絡む。だからこれだという原因をあげることはできないが、それでも理由は存在している。
ある種の気くばり、ささやかな見逃し、小さなミスの蓄積。思えば日本GPでエンジンが壊れたのは、そういう事もあったのかもしれない。
それは運じゃない。今までできてたことができてなかった。それを人は衰えと呼ぶ。
ミハエル・シューマッハは衰えた。だからアロンソに勝てなかった。運が悪かったわけじゃない。
おそらく、ミハエル自身がそれを一番よく知っているだろう。若いころはそれこそ たくさんのタスクを同時にこなしていながら「これくらいできて当り前だろ、なんでできないの?」って本気で言 うような人間でも、年を取れば衰える。集中力も下がる。若いころはできてた事ができなくなる。それは自分自身の事だからこそ、よくわかる事なのだ。
だから引退を決めたのだろう。
しかし同時に、ミハエル・シューマッハの価値は勝利することではない事も、このブラジルGPは教えてくれた。
F1ファンは異口同音に言う。ミハエル・シューマッハは後方から追いあげてる時が一番おもしろい、と。
ブラジルGPでのミハエルは、耀いていた。10位からスタートして、5位にあがった。そのあとタイヤがパンクして最後尾にまで落ち、トップからほぼ1周遅れにまで後退した。それでも次々に他車を抜き去り、ラスト3周で自分自身が後継者に指名したライコネンをも抜いた。このオーバーテイクは抜いた方も抜かれた方も見事な、これぞF1というバトルだった。気付いてみれば4位。他のどんなレーサーでもありえないリザルトだった。
ミハエル・シューマッハの価値は、決して諦めない事、くさらず最後の最後まで全力を尽くす事、絶対に後ろ向きにならない事、努力し続ける事、そういう正論すぎるような当り前の事を本当に実行し続ける事にこそあるのだ。
ミハエル・シューマッハは天才ではない。天才とはセナやハッキネンのような奴を言うのだ。その天才を、シューマッハは誰にも負けない努力で越えてきた。決して諦めずに。
この偉大なチャンピオンのラストランは、自分自身の本当の価値を体現したと言っていいだろう。勝ち負けが結果に過ぎない事を、改めて感じた引退レースだった。
ありがとう、ミハエル。ただ、それだけを言いたい。
(@941)