/.-jの記事にもある通り、朝日新聞の土曜別刷り版「be」のHTML入門記事があまりに酷い内容だったので抗議文を送った。これはその抗議文とその後のやりとりを公開し、今後の指針を考えるために書くものである。
2003年7月27日19:40、最初の抗議メールを送る。
すがのと申します。 夏休みホームページ作り<http://www.be.asahi.com/20030719/W16/0033.html> という記事を読ませていただきました。 しかしこれはあまりにも酷い内容です。 HTMLが現在抱えてるアクセシビリティもポータビリティも完全に無視し、W3C が明確な理念の元、修正を実行する以前の化石のようなHTML入門ではありませ んか。 このようなHTMLは一昔どころか二昔も三昔も前に書かれていたものです。 現在のHTMLはとっくの昔にきちんと規格化され、W3Cを中心として普及活動が 進んでいます。 御社の記事はあまりにも時代後れと言わざるを得ません。 初心者にまずは書くことを覚えてもらおうという意図は理解できます。 しかしだからといって間違ったことを広められるのははっきり申しまして迷惑 千万です。 こんなHTMLでは正しく表示できないブラウザが出て来るばかりか、障害者には まったく読めないHTML文書ができあがってしまいます。 正しい規格化されたHTMLを広め、万人が平等に情報を得られるようにするため の活動を真向から否定するつもりですか? 御社はハンディキャップを背負った人間にウェブページを利用する資格は無い とおっしゃるつもりですか? このような差別的な記事を掲載することに強く抗議します。 御社の記事はあまりにも間違いが多すぎて指摘するのも大変なくらいです。 よって間違いの無い、HTMLを正しく説明し、本当に最低限の部分から説明した 文書を御社の記事を元に書いてみました。 どうぞご一読ください。 そして万人が平等にインターネットに参加できる社会作りに貢献してください。 -- Sugano Yoshihisa(E) <mailto:koshian@misao.gr.jp>
このメールに添付したファイルも置いておく。あまりの怒りに冷静さを欠いたのか、EUC-JPのplain textで送ってしまった。読めたかどうかは定かでないが、まああちらの環境など想像つかないということで一つ。
同28日21:28、さっそく返事が届く。個人名はアルファベットの「K」に置き換えておいた。
すがの様 朝日新聞be編集部のKと申します。 お叱りのメール拝読いたしました。 さて、ご指摘の趣旨は、ごもっともと思いますが 記事を書いた意図は別にございますので、この場をお借りしてご説明させていただきます。 普段beをご覧になっているか分かりませんが この欄は、一般の入門書を読んでも理解できないがゆえに デジタル的弱者の立場におかれている方々を対象に書かれております。 こういった方々にとっては 正しいHTMLを知ることよりも とにかく自分でホームページを作ってみたいという欲求の方が強いと考えます。 そして、それが不当な欲求であるとは思いません。 こういった趣旨に立って、説明もタグ類も極力省略しました。 たぶん、ご納得いただけないでしょうし お腹立ちも理解いたしますが HTML入門を書いたわけではない、ということをご理解いただければと存じます。 末筆ながら、今後ともご指導賜りますようお願い申し上げます。 朝日新聞be編集部・K 拝
なるほど、すでにネットに転載されてるものとは違う文章のようだ。人間味も感じる。ちゃんと手書きで書いたメールのように感じた。大量の抗議メールが届いてるだろうに、ちょっと好感。
同29日00:26、返事を送る。好感を持ったわりに怒りが増したようで、恥ずかしいほど冷静さを欠いたメールな気が……。記録なのでそのまま載せるが。
すがのです。 まずはお返事ありがとうございます。 At Mon, 28 Jul 2003 21:28:20 +0900, <be@asahi.com> wrote: > 普段beをご覧になっているか分かりませんが > この欄は、一般の入門書を読んでも理解できないがゆえに > デジタル的弱者の立場におかれている方々を対象に書かれております。 ええ、それは理解しています。 > こういった方々にとっては > 正しいHTMLを知ることよりも > とにかく自分でホームページを作ってみたいという欲求の方が強いと考えます。 > そして、それが不当な欲求であるとは思いません。 まったくそのとおりでございます。 > こういった趣旨に立って、説明もタグ類も極力省略しました。 はい、省略しているのであればここまで怒心頭に達しません。 間違った差別的なHTMLを解説してるから怒っているんです。 論点を間違えないでください。 たといわかりやすくするためとはいえ、あのように人道に反した記事は言語道 断です。 インターネットのバリアフリーを目指す活動をどこまで阻害すれば気がすむの ですか! HTML標準化と理念の実現の為に、W3Cやその協力者たちが流して来た血と汗と 涙を貴誌はなんと心得るか! 人を馬鹿にするのもたいがいにしていただきたい。 > たぶん、ご納得いただけないでしょうし > お腹立ちも理解いたしますが まったく納得いきませんね。 しかし我々の怒りを理解はしてないでしょう。 理解できるとおっしゃるならそもあのような記事が掲載されるわけがない。 > HTML入門を書いたわけではない、ということをご理解いただければと存じます。 HTML入門を書かないのであればHTMLを説明しないでいただきたい。 HTMLの書き方を解説しておいてHTML入門ではないなどという非論理的な言い訳 が通るとでも思ってらっしゃるんですか。 貴誌は以前にもMS-Wordを用いたウェブサイトの作り方を掲載していますね。 HTML入門ではないとおっしゃるのならHTMLの書き方など書かず、そのようなツー ルの解説を書けばよろしい。 貴誌のおっしゃってることは非論理的であるばかりか非倫理的であり、かつ根 本において問題をすり違えてらっしゃる。 改めて強く抗議し、このメールに代えさせていただきます。 追伸: この一連のメールのやりとりを今後のためにも The Internet で広く公開しよ うと思います。 もし何か問題がありましたらお早めに連絡ください。 2〜3日で公開準備を終らせるつもりですので。 -- Sugano Yoshihisa(E) <mailto:koshian@misao.gr.jp>
同29日19:31、また返事が届いた。意外に早い対応。
すがの様 改めてお返事申し上げます。 普遍的なHTMLの普及に努めていらっしゃる皆様を愚弄するつもりは まったくありません。 ただ繰り返しになりますが 私が今回の企画で優先したのは 正しいHTMLよりも、取りあえずやってみることです。 英会話では、文法を学ぶより、まず話してみなさいと言いますよね。 何の助けもなくホームページを作れる方々にとっては そもそも、このような欄は必要ないわけです。 まずやってみて きちんとやろうと思ってから 改めてルールを勉強したって構わないのではないですか? それが差別を助長するというのは、少々ひどい決め付けと思います。 私には、すがのさんが 「ルールを知らないヤツはネット社会に入ってくる資格がない」 と言っているように読めますが そもそも、だれがそういう資格を与えるのでしょうね。 ちょっと穿ちすぎたようです。 ホームページ拝見しました。 面白い内容ですね。 やり取りを公開するというのを止める手段はない訳で まあ、よろしくお願いします。 朝日新聞be編集部・K 拝
しぶしぶという感じだが、公開許可を得たと解釈しておく。
同30日09:54、返信を送る。少し頭を冷やして、冷静に説得してみる。まだ冷静になりきれてはいないが……
すがのです。 再びのお返事ありがとうございます。 At Tue, 29 Jul 2003 19:31:45 +0900, <be@asahi.com> wrote: > ただ繰り返しになりますが > 私が今回の企画で優先したのは > 正しいHTMLよりも、取りあえずやってみることです。 これは同意します。まずは作る喜びを味わうことが大切です。 しかしその方法の検討が甘いのですよ。 > 英会話では、文法を学ぶより、まず話してみなさいと言いますよね。 それは幼児教育です。 母国語以外の言語を覚えるのに、文法は必須です。 ましてや自然言語ではないのですから、文法無くしてははじまりません。 <http://slashdot.jp/article.pl?sid=03/07/27/0650211> こちらの議論を見ていただくと参考になるでしょう。 > まずやってみて > きちんとやろうと思ってから > 改めてルールを勉強したって構わないのではないですか? それは違います。 最初に間違った事を教わるということの弊害は考えた事が無いのですか? 最初にルールを学ぶ必要は無いでしょう。 しかし間違った事を教えていてはダメです。 あくまで正しいHTMLの中のわかりやすい部分を抽出して教えなくては なりません。 まったく知らない人にものを教えるというのはとても難しいことです。 だからといって、最初にルールからはみ出してはまったく意味がありません。 モダンなHTMLの構造とは見出しと段落による構成です。 headやbody等のタグを省略できることは私も最近知りましたが、それと合わせ れば非常に簡単でわかりやすいHTMLを教える事ができます。 件の記事の内容であれば、 <!DOCTYPE HTML PUBLIC "-//W3C//DTD HTML 4.01//EN"> <title>ホームページ講座3回のスケジュール</title> <h1>ホームページ講座3回のスケジュール</h1> <p>7月19日号 まず文字だけのページから</p> <p>7月26日号 画像を張ってみます</p> <p>8月2日号 リンクを張りましょう</p> 以上、たったこれだけでいいのです。 使ってる要素はtitle、h1、pだけです。 記事になったHTMLよりもずっと簡単ではありませんか? 省略してあるhead、body、html、それからCHARSETを指定するメタタグ、これ らは本来省略は推奨されません。 ですが省略は可能です。 こういうものこそ「後から学べばよい正しいルール」ではありませんか? HTMLで大切なのは、 1. 見栄えはブラウザとCSSに依存する 2. 要素は意味を表す この二つの理解です。CSSを教えるのは無理でしょうから、見栄えはブラウザ に依存するとしてもいいでしょう。 要素に付いてはタイトルと見出しと段落だけです。 これなら誰でも理解できますね。 どう見えるかをコントロールするのは上級編とでもしとけば納得してもらえる でしょう。 > それが差別を助長するというのは、少々ひどい決め付けと思います。 インターネットのバリアフリーについてお考えになった事は無いのですか? 今、目の見えない人が、インターネットに参加するのにどれだけ苦労してるか、 すこしでもご存知ありませんか? 彼らは未だにMS-DOSを使ってる事も多いのですよ。 MS-DOSで動作するブラウザにどういうものがあるかご存知ですか? > 私には、すがのさんが > 「ルールを知らないヤツはネット社会に入ってくる資格がない」 > と言っているように読めますが > そもそも、だれがそういう資格を与えるのでしょうね。 本来そう言いたいところです。 私はよくコンピュータを車に例えますが、現状のインターネットとコンピュー タは免許制度の無い車社会であると思います。 インターネットに教習所はありませんし、基礎的な知識を持たずにネットに入っ て来る人が大半をしめるようになってしまいました。 混乱が多いのは当然だとも言えますね。 ここ1〜2年続いてるCodeRed、Nimda、Slammerといったウィルス被害も、基本 的な知識があれば被害が出たりはしなかったのです。 だからこそ知らない人に何かを教えるということには大きな責任がともなうと 考えています。 昔はインターネット社会も小さかったので、いわゆる長老みたいな人が新人を 厳しく叱りつけることで秩序が保たれていました。 (昔と言っても2〜3年前まではよく見る光景でした) ですが、今はそれもできないほど、インターネットは肥大化しています。 となれば、知らない人に間違った事を教えるという行為から潰していかねばな りません。 教える側の知識レベルを上げていくしか無いのです。 たかがHTMLとお考えかもしれませんが、間違った事を学ぶ人の気持ちも考えて あげてください。 自分のやってきたことが否定されるというのはとてもつらいことです。 > ホームページ拝見しました。 > 面白い内容ですね。 ありがとうございます。 どこからURIを見付けたかは知りませんが、昨日の昼頃いらしてましたね。 > やり取りを公開するというのを止める手段はない訳で > まあ、よろしくお願いします。 ありがとうございます。 許可いただけたと解釈させていただきます。 -- Sugano Yoshihisa(E) <mailto:koshian@misao.gr.jp>
30日18:31、恐らく最後と思しきメールが届く。
すがの様 ご趣旨承りました。 また、大変勉強になりました。 ありがとうございました。 今後とも、よろしくお願いします。 朝日新聞be編集部・K 拝
本当に納得したのかいい加減やりとりを打ち切りたいだけなのかは、今後の動向でわかるだろう。注目していきたい。