狐の王国


2007年11月19日(月) [過去の今日]

#1 小さな魅力の蓄積こそがキラーコンテンツになる

フジテレビ、人気番組「あいのり」をネット配信。一話315円…ニコニコ動画などの不正投稿に対抗 という記事。

いやこんなの読んでる場合でもないんだけども。

まあとにかく、意外と反応が冷淡なのが驚いた。見るわけないだろうみたいな反応ばっかり。

「コンテンツに金を払わない消費者」というのは確かに問題視されがちだけども、よくよく考えると「金を払うなら見ない消費者」が圧倒的に多いんじゃないか、と思ったりもする。

明日からフジテレビやTBS等々民放各社の放送が有料になったら、たとえ月額300円程度だったとしてもどれくらいの人がそれを見るだろうか。

もちろんタダでテレビが見れるわけじゃない。テレビを保有する人はNHKに受信料を支払う必要がある。が、それを払っておけばあとは何時間でも何本でも見放題だ。

このへんが「タダ同然」たる所以。ネットにおけるISP料金、ニコニコ動画のプレミアム料金みたいなもので、消費者感覚としては「タダで見てる」のである。

ポイントは「定額」で「全部見れる」こと。コンテンツ単位の課金は価格に限らず支払いの面倒さから見てもらえない。

こうして「タダ同然」だからこそ見てもらえるし、「タダ同然」だからこそ生まれる文化がある。ニコニコ動画のMADや歌ってみたシリーズなど、お金を払わないと見られなかったら誰が見るだろうか。たとえどれだけ面白くても、お金を払う前にそのおもしろさを知ることは出来ないのである。

思えばTV番組自身がこの50年ほどそれをやって来たわけだ。ずっとテレビは「タダ同然」で見れた。タダ同然だからこそくだらないバラエティ番組でもおもしろく見れた。それはみんなが「タダで見れる」から。

みんなが見れれば、それが話題になるからだ。

みんなが見れないコンテンツは話題に出来ない。話に入れない人が出てきてしまうから。

YouTubeやニコニコ動画もそうだ。おもしろいと思ったら、Mixiに書いたりメールで友達にまわしたりして、それが話題を広げることになる。バイラルなんて今に始まったことじゃない。

「みんなが見てるから話をあわせるため」にコンテンツを見る。そうやってテレビも成長してきたではないか。

もちろん、今回のフジテレビのやり方は、見逃し者へのフォローという意味が強いだろうと思う。だからこれに当てはまるかというと微妙かもしれない。

でもやっぱり俺は当てはまると思うのだ。支払いの面倒さは最大の障壁。ただサイフからお金を出すんじゃなく、IDとパスワードを入力して試聴登録してクレジットカード番号を入れて……そんなこと何度もやってられるか。

フジテレビがやるべきだったのは、2つある。

1つは、YouTubeにチャンネルを開き、そこで放送すること。これは広告売り上げをYouTubeと折半できる(はず)。

もう1つは、iTunes Storeのような場所で番組を売ること。

どちらにせよ、単体コンテンツ、単体局では、なかなか支払ってもらえないだろう すでに支払いのための手続きが終ってる場所に集約する必要がある。

消費者に与えるべきは「欲しいの蓄積」だ。
「あいのりが見れますよ。月額525円です」
あいのりかあ。見たいけどなあ。うーん。
「渡る世間は鬼ばかりも見れますよ」
おお、いいねえ。でもなあ
「暴れん坊将軍も見放題です」
うわ、やべえ、それは見たいなあ、くそ
「ほら、仮面ライダー電王だって」
ぬぬぬ
「朝の連ドラだって見逃しても安心です」
ああもう、わかった、525円払うわ

別にキラーコンテンツなんて必要無い。小さな魅力を蓄積させればそれでいいのだ。

そしてキラーコンテンツたりえるものなど、恐らくもう現れないだろう。これほど価値観が多様化してしまっては、ほんとうの意味でキラーになりえる存在は規定しがたい。

だから「ある人にとってのキラーコンテンツ」をたくさん揃える。小さな魅力をたくさん揃える。この2つで「欲しい」という感情を蓄積させる。

どんなものでもそうだ。iTunes Storeは音楽が安く買えるというだけでここまで大きくなったわけじゃないだろう。iPodでも聞ける、既存のCDが整理できる、そういった小さな魅力の蓄積がiTunesユーザーを増やし、ストアの売り上げに繋がっているのだろう。

俺がおととしHDDレコーダを買ったのは、テープを入れ換えなくてすむというだけで買ったわけじゃない。これなら録画予約を毎回させられずにすむというのもあったし、録画したものをLANを通してPCにコピーできる機能があったというのもある。そして、VHSデッキが壊れてしまったというのも。

それらどれ1つ欠けても買わなかっただろう。小さな魅力の蓄積が購買をうながすのである。

その小さな魅力を蓄積するのに、フジテレビ一社だけで、それも極一部のコンテンツだけで勝負などできようはずもない。

フジテレビはYouTubeやニコニコ動画やiTunes Storeに乗っかるべきだ。そのすべてを使ったっていいだろう。自社配信にこだわるうちは、決して勝てやしない。

(@828)

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Sugano "狐志庵" Yoshihisa(E) @ 美紗緒ネットワーク <koshian@misao.gr.jp>
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