狐の王国


2007年10月26日(金) [過去の今日]

#1 虐待を受けた子供たちがみんなフェイトのように幸せになってくれたらいいのに

以前、 魔法少女リリカルなのはというアニメ作品に言及 したことがあった。その独特のおもしろさにすっかり虜になっていて、いまでも俺の中のなのはブームは俄然燃え続けている。

それで、この中の登場人物である「フェイト」がいたくお気に入りというか、どうしても他の登場人物よりも感情移入が激しくなる。最近ようやくその理由がわかった。

フェイトが「虐待児童」だからだ。

最初のシリーズは、まさにフェイトの話だった。母親から暴力を受け、愛してもらえない姿が、描かれていた。それでも最後まで母への愛を貫こうとしていたフェイトに、涙せずにはいられなかった。

現実の児童虐待でたまに聞く話なのだが、 こちらの書評などにもあるように、 虐待児童が加害者である親をかばう、お母さんは悪くないと主張する、そういう事例がけっこうあるのだそうだ。

フェイトの行動は、まさにそれにそっくりだ。母が悪いのではない、うまくできない自分が悪いんだ。そうやって自分を追いつめていく。母が自分をまったく愛してないとわかった後ですら、二人でやりなおしたいとまで言う。

その望みは、かなわないのだけれども。

それだけ傷ついた一人の少女を、全力全開で受け止めようとするのが主人公なのはだ。このなのはの全身全霊の「人を受け止める力」が、シリーズ全編を通して描かれている。「ただまっすぐに受け止める、光の女神」、それがなのはだ。それゆえにシリーズ3作を通して、なのはが主人公であり続けている。

その愛に包まれた最初の一人が、フェイトだ。

少々ネタバレになるが、最初のシリーズの終盤、なのはは「すべて終ってしまった」と落胆するフェイトに言う。「私たちはまだ始まってもいない」。

そして名前を呼びあうことで「始まった」フェイトの人生は、どれほど素晴しかったのだろうか。

産みの母にあれだけ傷つけられ、裏切られたフェイトは、なのはと、里親になったハラオウン一家の深い愛情に育まれて行く。そう、ここでも「ただまっすぐに受け止め」られて来たのだろう。

シリーズ2作目となる「魔法少女リリカルなのはA's」では、その初期の段階が、わずかだが描かれる。母となる人、兄となる人、友達となった人々。フェイトの周囲には、愛情に溢れた人たちが揃っていく。そして、同じように「始めて人に受け入れられた」人たちと、戦っていく。

その中でフェイトは、母と、いたかもしれない姉の幻に囚われる。欲しかった生活、欲しかった幸せ。その幻の中にずっといたいと願う心。

結果的にフェイトはそれを振り切るのだが、その源動力となったのは、やはりなのはと、ハラオウン一家の深い愛と、彼女らが用意した「帰るべき場所」があったからではないだろうか。辛いだけの現実に、勇気だけでは帰れないと思うのだ。

シリーズ3作目となる「魔法少女リリカルなのはStrikerS」のフェイトは、それから10年たって、すっかり大人になっていた。二人の児童の保護者となり、親代わりを努めるまでになっていた。

あれだけ傷ついた少女が、たくさんの愛情に救われ、自分が子供たちに愛情を与えるまでに成長したのだ。それに涙せずにいられようか。

それも最後には、その自分が育てた子供に、精神的のみならず自分の命まで助けてもらうのである。そこまでに人を育てるだけの「大人」に、フェイトは成長していた。

たかがフィクションと笑う人もいるかもしれない。しかし、俺はこのフェイトの姿に、もしかしたらあるかもしれない虐待児童の未来を見てしまうのだ。

どんなに傷ついた子供でも、せいいっぱいの愛情の中で育てなおせば、きっと幸せになれる。いつだって始め直せるんだと。

いま、児童虐待の総数は 35万件ほど になってるそうだ。現実の虐待は、フェイトのように都合よくは解決したりしないだろうし、内情も様々で、一概に言えるようなもんじゃないだろう。人によっては、そんなアニメなんかと一緒にすんなと怒り出すかもしれない。児童虐待という現実と戦ってる人たちが見たら、そんな簡単じゃないと怒るかもしれない。

だがそれでも、俺は「フェイト」という少女の成長を垣間見るたびに、涙が溢れそうになるのである。

現実もこうだったらいいのにと。現実を少しでもこんなふうにしたいと。

何かできることを、見つけたいと思う。

(@666)

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Sugano "狐志庵" Yoshihisa(E) @ 美紗緒ネットワーク <koshian@misao.gr.jp>
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