狐の王国


2007年05月13日() [過去の今日]

#1 もし魔法少女がジャンプ漫画だったら

魔法少女リリカルなのは 」 というアニメをご存じだろうか。オタク界隈をうろついている人ならば、一度は名前を耳にしたことがあるだろう。 そのタイトルや絵柄は、いかにも「オタク向けの美少女アニメ」という風体で、特に興味をそそるものは無い。俺自身も興味が無かった。

魔法少女リリカルなのは Vol.1

「これはちょっと違うのかな?」と思い始めたのは、今は消されているがYouTubeに掲載されていたMADを見てからだ。今は ニコニコ動画に転載 されている。「リリカルなのは」の主人公なのはと、あの「ドラゴンボール」の孫悟空との激しいバトルを絶妙な編集で実現してしまった良作MADだ。

このMADから垣間見える「なのは」の戦闘スタイルが、何か俺の琴線に触れるものがあった。これはそこらの魔法少女パロディとは違うのではないか。そう思い始めてからは、「なのは」を見てみたくなってきた。

そんな事を言っていたら、録画した知人から「なのは」と続編である「A's」を頂けることになり、ちまちまと見始めた。激しく後悔した。なぜ今まで見てなかったのだろうかと。

最初の数話は普通の魔法少女アニメのように見える。異界の発掘者ユーノが事故でこの世界にばら撒いてしまった古代の遺物「ジュエルシード」を集める、という比較的ありがちな設定が1話と2話を使って説明される。3話でなのははひとつの悲しい思いから、自分の意志でジュエルシード集めをする事を決意する。4話はライバル魔法少女の登場と、全13話という短さもあってテンポよく「お約束」をこなしていく。

おもしろいアニメというのは、「お約束」を踏襲しつつもちょっとだけ「お約束」を外している事が多い。この「なのは」の序盤でもその片鱗が紛れこんでいる。ライバル魔法少女が主人公の学校に転校してきたりしないし、変身シーンも毎回きっちり入れてるわけじゃない。何よりすっきりと終らない。

このへんは仮面ライダーにも似ている。昭和ライダーは基本的に一話完結だったが、平成ライダーは連続作品になっている。魔法少女ものもやはり従来は一話完結だったが、「なのは」は一見一話完結のようでそうではなく、話がどんどん次に持ち越されて行く。

そして「リリカルなのは」という作品の方向がはっきりと見えるのは、7話だ。6話から続くライバル魔法少女フェイトとの戦闘。描かれるフェイトの「理由」。ふたりの戦いに立ち入る「3人目の魔法使い」クロノ。そしてクロノが所属する「時空監理局」という「大人の世界」が突如として出現する。

ここ数年話題の「セカイ系」と呼ばれるジャンルがある。それは個人が世界と直接結び付いていて、個人と世界を本来繋いでるはずの「社会」を描かない。そこが批判の的にもなる。言われてみれば魔法少女なんてジャンルはみな「セカイ系」かもしれない。ふと冷静になれば、なぜ警察や政府が動かないのか不思議に思うこともある。

だが「なのは」はそれを描く。若干SF風味だが、「時空監理局」という組織が登場し、事件解決の主体は彼等が担っていく。そこには社会と法律があって、秩序がある。ここらの描写は、子供たちの悪戯が大袈裟な事になって大人が出てくるような雰囲気だ。当然といえば当然の事である。

このように、「なのは」は意外にリアリストな作りである。変身後も知人に顔を見られれば本人だとわかってしまうし、描写は少ないが魔法の練習もちゃんとやってたりする。また、続編である「A's」で主人公なのはのセリフにこんなものがある。

「永遠なんて……無いよ。みんな変わっていく。変わっていかなきゃいけないんだ。私も……あなたも!」

すべての幻想を打ち砕くようなこのセリフは、ベテラン声優 田村ゆかり によって、迷いの感じられない純粋な、しかし地に足の付いた決意となって響く。

このような背景をベースに描かれるのは、まるでジャンプ漫画のようなバトルである。バトルもの定石をきちんと踏襲し、そつ無く、しかし激しく展開される。まさに「努力・友情・勝利」。そこは魔法少女ものにあるまじき 男の子回路 を熱く燃え上がらせる。

それでも「なのは」は「なのは」で、女の子だからこそ描ける優しさ、儚さ、強さが、少年漫画では味わえない大きな感動を与えてくれる。そしてそれが「リリカルなのは」という作品をただのバトルものでも、ただの魔法少女でもない、独特の魅力に導いてくれている。

現在放送中の第三期である「魔法少女リリカルなのはStrikerS」は、時系列こそ続いているものの、前作前々作とは大幅に雰囲気が変わり、話数も2クールと今までの倍の長さになっている。これについてはまだ評価の定めようが無い。だが第一期「魔法少女リリカルなのは」と第二期「魔法少女リリカルなのはA's」は間違いなく名作だと言える。特に「セーラームーン」や「カードキャプターさくら」が好きだった人、往年のジャンプ漫画のようなバトルを見たい人にはおすすめである。個人的にはそれぞれ二作を映画でリメイクして欲しいくらいだ。絶対見に行く。

驚きなのは、この作品が18禁ゲームのスピンオフだということである。 Wikipedia によると、元々はスタッフの遊び心から生まれたもののようだ。アニメを見てしまった後では、もうそんな言葉は信じられない。ゲームのほうがアニメの同人作品じゃないのかとすら思う。それほどアニメの完成度は高い。

出自や絵柄、表面的な部分で敬遠してる人もいるだろう。俺もそうだった。しかしこれは見た目じゃ判断できない。いい意味で裏切られた作品だ。しかし、この魅力を伝えるのに7話まで見てもらうのは大変だ。やはり、90〜120分程度の映画に再編集してもらいたいものだが……。

(@465)

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Sugano "狐志庵" Yoshihisa(E) @ 美紗緒ネットワーク <koshian@misao.gr.jp>
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